前立腺がん
はじめに
前立腺がんは中高年の男性に多いがんです。日本では、男性で2番目の罹患率(2016年度全国がん登録)で、高齢化に伴い今後も増加傾向にあると考えられています。前立腺がんは、他のがんと比べて、進行が比較的緩徐な特徴があります。
陽子線治療の適応
治療方法は転移の有無によって大きく変わります。転移がない場合は局所治療の適応となります。局所治療には大きく分けて手術と放射線治療がありますが、治療効果はほぼ同等と考えられています。放射線治療の中には、陽子線治療、炭素線治療、強度変調放射線治療(IMRT)、小線源治療などがあります。陽子線治療は直腸や膀胱など周囲の正常組織への副作用の低減が期待できること、外来で通院しながらの治療ができるなどの特長があります。
陽子線治療の方法
局所前立腺がんの治療では、3つのリスク(低、中、高)に分類して治療方針を決定します。
低リスクと評価された場合:陽子線治療を行います。線量分割は63 Gy(RBE)/21回です。治療期間は約5週間となります。
中リスクと評価された場合:約半年間のホルモン療法のあとに陽子線治療を行います。ホルモン療法は陽子線治療終了時まで継続します。線量分割、治療期間は低リスクと同じです。
高リスクと評価された場合:約半年間のホルモン療法のあとに陽子線治療を行います。ホルモン療法は陽子線治療終了後も継続し、全3年継続します。線量分割、治療期間は低リスクと同じです。
効果と副作用
通常は、PSAの推移で治療効果を判断します。80-90%以上の非再発が見込めます。リスクやホルモン療法の有無によっても治療効果が異なります。副作用として照射期間中は頻尿が見られます。下痢、皮膚炎が見られることもあります。治療後は膀胱、直腸からの出血のリスクがありますがその可能性はかなり低いです。
当センターの治療方法の特長
●陽子線の線量集中性の高さを利用して、原則左右2方向のみの照射となります。これにより周囲の正常臓器への不要な線量を避けることができます。
●前立腺内に微小な金属マーカーを挿入します。金属マーカーは左右に1つずつ挿入し、その位置が治療計画時と照合することを毎日確認してから照射します。より正確性の高い照射が実現できます。なお金属マーカーは治療後の前立腺内に残りますが、MRIの検査で妨げになることはありません。
●前立腺と直腸の間にゲル状の物質を挿入します。スペースOARというゲル状の挿入物は直腸を前立腺から約1cm遠ざけます。これにより、直腸の線量をさらに低下させることができます。スペースOARはすでに保険適応となっており約半年で自然と体内に吸収されていきます。
●寡分割照射を行っています。従来はわが国では1日2Gyずつ7-8週間かけて治療を行うことが主流でした。前立腺がんでは1回の線量をあげて治療期間を短縮することが理論上有利とされています。この照射法を寡分割照射といいます。その中で、1日2.5-4Gyの中程度寡分割照射は、従来と同等の安全性が報告されています。当センターでは1日3Gyで治療期間5週間の中程度寡分割照射を行っています。
●IMPTを用いた陽子線治療
X線は体をつけ抜ける性質があるため、X線を用いた従来の治療では前立腺に高線量を投与するためには多方向からの照射を必要としていました(左上)。強度変調放射線治療(IMRT)は先端的な放射線治療で、X線を多方向から照射することは同様ですが、個々のビーム内で強度に強弱をつけることで、図に示すように直腸の部分を窪ませるような線量分布を作ることが可能です(右上)。一方、陽子線治療では、ビームが止まる性質を使って2方向からの照射で周囲への不要な線量を抑えて前立腺に高線量を投与することが可能です(左下)。当センターでは、さらに各ビーム内の強度に強弱をつけた強度変調陽子線治療(IMPT)で治療を行っています。これは、陽子線の「止まる」という性質と、「ビーム内で強弱をつける」という性質をくみあわせたもので、IMRTと従来の陽子線治療の利点をあわせ持ったような治療が可能です(右下)。
●超音波検査で蓄尿量を評価します。膀胱の副作用を低減するためには一定量の畜尿が必要です。毎回の照射時に超音波検査で蓄尿量を測定し、安全を確認したうえで治療を行っています。