肝臓がん
はじめに
肝臓がんは肝臓自体から発生する原発性肝がんと、肝臓以外に発生したがんが転移してきた転移性肝がんに大別されます。原発性肝がんは、日本では男性で5番目、女性で10番目の罹患率(2016年度全国がん登録)で、原発性肝がんの約95%は肝細胞由来の肝細胞がんです。肝炎ウイルス感染が発がんの誘因になりやすいこと、多発する傾向が強いことが知られています。
陽子線治療の適応
がん診療ガイドライン(2021年版)による肝細胞がんの治療法は以下のようになります。
肝細胞がんにはさまざまな治療方法が存在します。陽子線治療は歴史も浅く実施可能な施設も少ないこともあり、この図には掲載されていませんが、赤い矢印の範囲が主な適応と考えられています。腫瘍径は10cm未満であれば治療効果にあまり大きな差が出ないことが知られています。高齢者や腫瘍塞栓を伴う場合の治療にも対応可能です。また、肝細胞がんは多発する傾向があり、治療後に新たな病変が肝臓内に出現する可能性があります。その際、治療方針を決めるのに重要なのは肝予備能です。陽子線治療は肝臓への負担が小さく、次の治療への妨げになりにくい治療法です。再発病変の数や大きさによっては再照射の適応になる場合もあります。手術により根治的な治療が困難なものに限り保険適応となり、腫瘍径4cm以上が対象となっています。
陽子線治療の方法
肝細胞がんの治療では、その部位によって治療方法を決定します。
末梢型:周囲にリスク臓器がないので1回線量を高く設定できます。線量分割は66 Gy(RBE)/10回です。治療期間は約2週間となります。3つの中で一番線量が少なく見えますが、1回線量が高いので、実は一番効果の強い治療となります。
肝門部型:肝門部には重要な脈管が多数存在するため、1回線量を3.8 Gy(RBE)に設定して、線量分割は76 Gy(RBE)/20回です。あるいは3.3 Gy(RBE)に設定して、線量分割は72.6 Gy(RBE)/22回です。治療期間は約4週間となります。
消化管近接型:胃や腸は放射線の影響を受けやすいため、1回線量を2 Gy(RBE)に設定して、線量分割は74 Gy(RBE)/37回です。あるいは3.3 Gy(RBE)に設定して、線量分割は72.6 Gy(RBE)/22回です。治療期間は約8週間あるいは約4週間となります。
いずれの治療法でも局所制御効果に大きな差がないことが報告されています。
効果と副作用
80-90%程度の局所制御効果が期待されます。肝機能の障害は、肝機能の数値が軽度悪化することはありますが、それによって追加の治療を要することは少ないです。
当センターの治療方法の特長
● 肝臓内に微小な金属マーカーを挿入します。肝臓の病変はその部位が外からではわかりづらいので金属マーカーは病変の近傍に1-2個挿入します。あらかじめ、金属マーカーと病変の位置関係を測定し、金属マーカーの位置が治療計画時と照合することを毎日確認してから照射します。より正確性の高い照射が実現できます。なお金属マーカーは治療後の肝臓内に残りますが、MRIの検査で妨げになることはありません。
● 呼吸同期照射を行っています。肝臓は呼吸によって動く臓器ですので、呼吸に合わせて一定のリズムで照射を行います。当センターでは呼吸のフェーズを10分割して、その1フェーズのみ照射します。これにより周囲の臓器への不要な線量を極力抑えた高精度な治療が可能です。
● 1つの照射野で治療可能な病変の最大径は約13cmです。